ちょっとだけ、足してもいい?|1件目が押して、次の人を待たせる

第1話 ちょっとだけ、足してもいい?|ひとりネイルサロン みさきの物語
運営編 第1話

お客様が来てくださるようになって、今度は別の悩みが出てきました。 1件目が押して、次の方をお待たせして、お迎えにも間に合わない。 技術の問題ではありません。自宅には「次の予約」という強制終了がない—— そこから話がはじまります。

この記事の要点
  1. 押す原因はほとんどが「当日」に発生する。当日の努力では取り返せない
  2. 所要時間は同じ1人でも大きくぶれるため、人数の上限では守れない
  3. 安全に削れるのは施術ではなく「決める時間」。だから提案を3つに絞る
まず、思い当たるものはありますか
ひとつでも当てはまれば、この記事はお役に立てると思います。
  • オフをしながら「今日はどうされますか?」と聞いている
  • サンプルチップを、つい全部お見せしてしまう
  • 「何でも言ってくださいね」が口ぐせになっている
  • 施術中、お客様に気づかれないように時計を見ている
  • 「ちょっとだけ足しても?」に、いつも「大丈夫ですよ」と答えている
  • 押した分は、自分が急げばいいと思っている
  • 終わったあとに「思ったより長かったですね」と言われるのが、こわい
  • 次のお客様に謝るところから、2件目が始まる日がある

店舗では終われたのに、自宅では終われない

サロン勤務の経験がある方ほど、この違いに戸惑います。 施術の段取りも、時間配分も、体で覚えているはずなのに、 自宅ではなぜか終わらない。

理由はひとつです。店舗には、次の予約が入っていました。

後ろが詰まっていれば、いやでも切り上げます。 スタッフの目もあり、回転を止めるわけにはいきません。 受付が「そろそろお時間です」と声をかけてくれる店もあります。 ところが自宅サロンには、その圧力が一切ありません。 「もう少しだけ」が、いくらでも入ってしまうのです。

夜、予約表を前に頬杖をつくみさき
お店なら、次の予約が押し出してくれた。ここには、それがない。

ですから、自宅ではじめるときに必要なのは 「もっと手早くする工夫」ではありません。 店舗では自動的に働いていたブレーキを、自分で作り直すことです。

「急げばいい」が、いちばん高くつく

押したときに、施術のスピードで取り返そうとする方は多いと思います。 けれど、ここには落とし穴があります。

急いで仕上げた回は、リフトや浮きが出やすくなります。 お直しの連絡が来れば、その対応にまた枠を使うことになる。 その日に取り返した30分を、翌週に1時間かけて払い直すことになりかねません。

押したときに削ってよいのは、施術ではありません。
削る場所を先に決めておかないと、いちばん削ってはいけない場所を削ることになります。

押す原因は、当日に集まっている

施術時間が延びる原因はいくつも挙げられますが、 一般的には、デザインが複雑になること、事前の準備が足りていないこと、 当日の追加オーダー、そして爪の状態への対応が主なものと言われています。

このうち、自宅サロンで最も頻繁に起きるのが次の3つです。

当日 1

デザインが決まらない

オフが終わってもまだ迷っている。スマホを見ながら考えている。カウンセリングだけで30分が過ぎていく。

当日 2

その場で足される

「ちょっとだけアート足してもいい?」——1本のつもりが数本になり、想定していた枠を超えていく。

当日 3

予定と違う状態だった

リフトや欠け、深爪。オフだけのはずが、整えるところから必要になる。

3つに共通しているのは、すべてお客様が着席してから発生していることです。 つまり、当日に対処しようとしても、もう遅い。 対策は前日までに終わっていなければ意味がありません。

そして、遅れは累積します

見落とされがちなのが、ここです。1件目の遅れは、その1件で終わりません。

その日の予約 それぞれの遅れ お客様が待つ時間
1件目 30分押した 0分(本人は気づかない)
2件目 さらに20分押した 30分お待たせ
3件目 50分お待たせ

3件目の方は、何も悪いことをしていないのに50分待たされます。 そしてこの方が、いちばん「もう予約しなくていいかな」と感じます。 1件目の30分は、自分の疲れではなく、3件目の信頼を削っているのです。

時間の上限は、人数では守れない

「1日2人まで」と決めれば守れそうに思えます。 けれど実際には、これが機能しません。

一般的に、オフだけでも10本で30分前後かかると言われています。 そこにシンプルなワンカラーを重ねれば、合計で1時間半から2時間程度。 ところがアートやパーツを多く入れるデザインになると、 塗布と硬化だけで2時間近くかかることも珍しくありません。

同じ「1人」でも、1時間で終わる方と、3時間かかる方がいます。
人数で区切ると、2人でも終わらない日が出てしまう。

ここが、店舗勤務のときには意識しなくてよかった部分です。 お店では予約枠がメニューごとに設計されていて、 時間の管理は仕組み側が引き受けてくれていました。 自宅では、その設計から自分で行うことになります。

1日の時間を、分解してみる

1件の予約を工程ごとに分けると、削れる場所と削れない場所がはっきりします。

工程 削れるか 理由
準備・消毒 削れない 衛生に直結する。ここを削ると信用を失う
カウンセリング 削れる 相談の質ではなく「迷う時間」を減らせる
オフ・ケア 削れない 雑にすると次のもちが悪くなる
ベース〜アート〜トップ 削れない 仕上がりそのもの。急ぐとお直しが増える
片づけ・記録 少しだけ 省くと次回に持ち越すだけになる

並べてみると分かります。 安全に削れるのは、カウンセリングの「迷っている時間」だけです。 ほかを削ると、必ずどこかで返ってきます。

指を3本立てて選択肢を示す涼子先輩
「押す原因は当日でしょ。潰し方は3つある」 正解はひとつではありません。生活の形によって、選ぶべき案は変わります。

対策は、3つあります

1
提案を3つに絞って出す

サンプルをすべて見せるのをやめ、その日におすすめする3つだけを並べます。 選択肢が多いほど、人は決められなくなります。迷う時間そのものを作らない方法です。

向いている人:カウンセリングが長引きやすい/お迎えの時刻が決まっている
気をつけること:選んだ理由を添えると、手抜きに見えません

2
当日の追加は、次回にまわす

「本日はここまで、続きは次回に」とメニュー表に先に書いておきます。 その場で断る必要がなくなり、次回予約のきっかけにもなります。

向いている人:常連さんが多い/リピートを増やしたい
気をつけること:予約時に必ず伝わる場所に書いておく

3
枠と枠のあいだに、余白を置く

予約と予約のあいだを空けておき、押しても吸収できるようにします。 確実ですが、1日に受けられる人数は減ります

向いている人:所要の読めないメニューが多い/体力を守りたい
気をつけること:余白の分を、単価か営業日数で補う

どれが正しいという話ではありません。 お子さんの帰宅時刻が決まっているなら3が向いていますし、 客単価を保ちたいなら2が効きます。選ぶのはご自身です。

本当の原因は、お客様の側にはない

ここまで「当日に決まらない」「その場で足される」と書いてきましたが、 お客様が優柔不断なわけでも、無理を言っているわけでもありません。

現役のネイリストが、施術が終わらない理由を振り返ってこう書いていました。 根っこにあったのは、どこまでやるかが自分の中で決まっていなかったこと、 自分のルーティンが決まっていなかったことだったと。

これは厳しい指摘ですが、同時に救いでもあります。 相手を変える必要がないからです。自分の側の線を先に引くだけで、状況は変わります。

みさきが選んだのは、1でした

理由は単純で、断らずに済むからです。

2は「今日はここまでです」と口に出す場面が残ります。 3は受けられる人数が減ります。 1だけが、誰にも何も言わずに、迷う時間を消すことができる。

サンプルチップを3枚だけ残し、残りを箱にしまうみさき
選択肢が多いほど親切だと思っていた。逆だった。

どの3つを選ぶか

「3つに絞る」と決めても、何を残すかで迷ってしまっては意味がありません。 選ぶ軸を先に決めておきます。

残す3つ 選び方
1つめ 前回と系統が近いもの。「いつもの感じ」で選びたい方の受け皿になります
2つめ 季節や行事に合うもの。旬があると、それだけで選ぶ理由になります
3つめ 爪の状態や生活にいちばん向いているもの。もちや長さの提案が入ると信頼につながります

この3軸なら、毎回機械的に選べます。 選ぶ側だけでなく、選んでもらう側の負担も減らすのが目的です。

さらに効くのは、前日に送っておくこと

3つに絞ったうえで、その3つを前日までにお送りしておくと、 カウンセリングは当日ではなく前日に終わります。

前日 明日はよろしくお願いします。 今回おすすめのデザインを3つお送りしますので、気になるものがあれば教えてください。 当日に決めていただいても大丈夫です。

決まっていれば、着席してすぐ施術に入れます。 決まっていなくても、すでに一度見ているので、その場での決断が早くなります。 「当日の30分」を「前日の3分」に移し替える、という考え方です。

言い方も、変わります

どれでも大丈夫ですよ。ゆっくり選んでくださいね。
今日おすすめしたいのは、この3つです。爪の状態と、季節と、 前回のデザインから選びました。どれがお好みですか?

上は親切に見えて、実は判断をまるごとお客様に預けています。 下は、こちらがすでに考えた案を持ってきている。 提案として成立しているので、選んでいただくだけになります。

迷わせてしまう出し方

  • サンプルをすべて並べる
  • 「何でもできます」と伝える
  • その場で新しい案を出し続ける
  • オフをしながら相談を始める

決まりやすい出し方

  • その日の3つだけを並べる
  • 選んだ理由を添える
  • それ以外は「次回のお楽しみ」に残す
  • 前日までに3つを送っておく

絞ることは、手を抜くことではありません。 選ぶ材料を整えて渡すことです。むしろ手間のかかる仕事です。

それでも押してしまった日は

仕組みを作っても、押す日はあります。大事なのは次のお客様への伝え方です。

すみません、前の方が長引いてしまって……。もう少しかかりそうです。
本日、開始が20分ほど遅れそうです。 お待たせして申し訳ありません。ご都合が悪ければ、別の日に振り替えも承ります。

違いは2つあります。前の方の話を持ち出さないことと、 何分遅れるかを数字で伝えることです。

「前の方が長引いた」は、聞いた側に 「自分のときも次の人を待たせるのかもしれない」と思わせます。 そして「もう少し」は、待つ側にとっていちばん不安な言葉です。 20分と言われれば、20分の使い道を考えられます。

明るいうちに玄関で娘を迎えるみさき
「この3つなら、これ」——迷う時間が、なくなった。

よくある質問

3つに絞ると、選ばれなかったデザインが無駄になりませんか。
無駄にはなりません。その日に出さなかった案は、次回の提案としてそのまま使えます。 毎回すべてを見せていると、かえって「もう見た」という印象になってしまいます。
お客様から「他のも見せて」と言われたら、どうすればいいですか。
もちろんお見せして構いません。大切なのは、こちらから全部を広げないことです。 求められて出すのと、最初から並べておくのとでは、かかる時間がまったく違います。
新規のお客様は、爪の状態が読めないので時間が計算できません。
新規の枠だけ、余白を多めに取っておく方法があります。 予約フォームで「他店でお受けになったジェルはありますか」「お直しが必要な箇所はありますか」を 先にうかがっておくと、当日の想定がかなり近づきます。
毎回とても長くお話しされる常連さんがいて、どうしても押します。
会話そのものを減らす必要はありません。 その方の枠を、最初から長めに取っておくほうが現実的です。 「話す時間も含めて、この方はこの長さ」と設計してしまえば、押したことになりません。
1〜3のうち、どれか1つに決めなければいけませんか。
いいえ。組み合わせて構いません。まず1から始めて、 それでも押す日が続くようなら3を足す、という進め方が現実的です。 一度決めたことも、あとから変えて構いません
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押さない予約枠のつくり方 3案

3つの案を並べて比べられるA4シート。それぞれの向き・不向きと、 ご自身の答えを書き込む欄をつけています。

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第2話 「今からでもいい?」に、いいよと言ってしまう
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「今からでもいい?」に、いいよと言ってしまう

夕飯の支度中に届く一通。断りたいわけではないけれど、読めないのがしんどい。 断らずに減らす方法があります。

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※この記事は物語シリーズ「ひとりネイルサロン|みさきの物語」の解説記事です。 登場人物はすべてフィクションであり、実在しません。提供:WebエンジンPro(株式会社MASA)
※記載の所要時間は一般的な目安であり、デザイン・爪の状態・使用する商材によって大きく異なります。 表内の遅れの累積は、考え方をご理解いただくための一例です。 実際の予約枠の設計は、ご自身の環境に合わせてご判断ください。
※画像はAIで作成したイメージです。

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