
小さな手が、お母さんの指をぎゅっと握りました。この子のためなら何でもできる、と思ったのは、あの瞬間です。
あおいへ
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小さな手が、お母さんの指をぎゅっと握りました。この子のためなら何でもできる、と思ったのは、あの瞬間です。

入学の前の晩、持ち物ぜんぶに、夜中まで「あおい」と名前を書きました。一文字書くたびに、この名前を決めた夜を思い出していました。

返事がなくても、毎朝「いってらっしゃい」だけは言い続けました。ある朝、小さな「いってきます」が聞こえた日、お母さん、洗面所で少し泣いたんだよ。

「大丈夫だから」と笑って改札を通ったあなた。見えなくなってから、お父さんは「行ったな」とだけ言って、帰りの車ではひと言もしゃべりませんでした。

おばあちゃんが、お母さんの二十歳のために選んでくれた振袖です。いつか娘が生まれたら着せたいと、28年間、たとう紙の中で待っていました。袖を通したあなたは、あの日のお母さんより、ずっときれいでした。
お父さんとお母さんだけが知っていること
お父さんあおいへ。二十歳おめでとう。うまく言えないから、ひとつだけ。いつ帰ってきてもいい。お前の部屋は、そのままにしてある。
おばあちゃんあおいちゃん、二十歳おめでとう。あの振袖は、なおみの二十歳のために、呉服屋さんを三軒まわって選んだものです。孫が袖を通してくれる日が来るなんて。長生きはするものですね。
こはるお姉ちゃん、二十歳おめでとう! 振袖、めっちゃきれいだった! 次に帰ってきたら、また一緒に寝ようね。ずっと大好き!
あおいへ
二十歳、おめでとう。
20年前の夏、生まれたばかりのあなたを初めて抱いた日のことを、昨日のことのように覚えています。
「葵」という名前は、お父さんとふたりで、夜中まで悩んで決めました。お日さまのほうへ、まっすぐ伸びていく花のように。あなたは、ちゃんとそういう人になりました。
うまくいかない日も、たくさんありました。親になるのは、お母さんもあなたが初めてでした。あなたと一緒に、20年かけて、少しずつお母さんにしてもらったのだと思います。
面と向かうと、つい「風邪ひかないでね」しか言えないので、家族みんなで写真と言葉を持ち寄って、このページを作りました。
あなたのお母さんになれて、本当によかった。
生まれてきてくれて、ありがとう。

2027年1月 お母さんより

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